スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 01 ソーシャルイノベーションの始め方 | SSIR Japan |本 | 通販 | Amazon
皆さんこんにちはONE Xのりゅうです。今日は今話題のソーシャルイノベーション関連書籍「ソーシャルイノベーションの始め方」の書評ブログを書かせていただきます。この本はスタンフォード大学で2003年に創刊された社会変革の探究者と実践者のためのメディア、ソーシャルイノベーションレビューの日本版の創刊号です。
創刊号のテーマは「主語を「わたし」に戻す」だそうです。ソーシャルイノベーションというと「国はこうすべきだ」とか「これが進んでいないのは自治体のせいだ」とか「社会課題を解決するために個人が犠牲になるべきだ」とかそんな議論が横行していますが、書籍を読む中で「自分自身のウェルビーイングに向き合うことで社会を変えていく」「市民参加型で個々人のアクションから変革を起こしていく」というメッセージを感じ取りました。自己犠牲の社会変革ではなく、自分自身のウェルビーイングを改善してアクションしていくことでそれを組織・地域・社会の変革に結びつけていこうという感じですかね。
Q .そもそもソーシャルイノベーションって何?
そもそものところからいきましょう。
Wikipediaによると「ソーシャル・イノベーションとは、社会問題に対する革新的な解決法。既存の解決法より効果的・効率的かつ持続可能であり、創出される価値が社会全体にもたらされるもののことである。ソーシャルイノベーションを事業として起業すると社会起業家とよばれる。」
いつもながら良くわかりません。イノベーションを革新的と訳している感じがやばさを感じてしまいます。笑 より社会課題に向き合って、イノベーティブな解決手法を実行していくことという感じでしょうか。デジタル領域にて、ソーシャルイノベーションを実践している人で私が真っ先に思い浮かぶのはオードリー・タン氏です。彼はオープンデータを活用し、市民参加型で実証実験を進めながらデータドリブンに政策を作ってきており、その進め方は世界的にも注目されています。TEDの動画も見つけたので貼っておきますね。
本書ではCOVID-19対応にソーシャルイノベーションが役立ったこと、従業員アクティビストによる企業変革の流れ、個人のウェルビーイングから社会を変えることなどをテーマに議論が展開されています。日本で四半世紀の間社会起業家育成を進めてきたETICの取り組みについて取り上げているコラムもあります。ETICは私も入社2年目くらいの時に通っていて良い刺激をもらった覚えがあります。懐かしくなりながら読ませて頂きました。
日本ではソーシャルイノベーターは「自己犠牲をしてなんぼ」みたいな色合いが強いですが、グローバルではそんなことはない印象です。自己犠牲は持続可能な組織を作れないと考えていて、短期的、もしくは長期的にはしっかりと利益を出しながら社会課題解決のために成長し続ける組織が多いと認識しています。昨今、注目されているインパクト投資のスキームも社会課題解決を資本の力でサステナブルなものにしていこうという流れの中で発展してきています。より多くの社会課題を解決するためには資本市場との紐付けは必須になってきています。ESG投資は「環境破壊を進行しながら、不当な営利に向かう企業体を是正するための株式市場起点の仕組み」と捉えています。
Q.ソーシャルイノベーションの始め方ってどんな本?
さて、そろそろ書籍のざっくりサマリーを書いていこうと思います。要約しきれていない部分もありますので、そこは書籍を読みながらフォローいただけると嬉しいです。
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・初めのセクションでは、COVID-19の対応のために立ち上がったドイツの#WirVSVirus(私たち対ウイルス)というオンラインハッカソンの具体事例からオープン・ソーシャルイノベーション(以下OSI)のプロセス、メリット、課題を明確にしています。
・OSIのプロセス
✔︎動員・・・・アクションの呼びかけと拡散
✔︎統合・・・・アイディアの創出、開発、集積のための場づくり
✔︎仕分け・・・ソリューション分類と残ったソリューションの支援組織化
✔︎規模拡大・・リソース提供とイノベーターへの働きかけ
・OSIのメリットと課題
✔︎相互のステークホルダーの絡みあう複雑系課題への対処が可能
✔︎オープンソーシャルイノベーションと一般的なオープンイノベーションは異なり、市民参加型のため、社会的なインパクトなど多角的な側面に向き合う必要あり
✔︎より開かれた参加しやすいものにすると変革のペースは鈍化
・OSIをより機能させるために必要なこと
✔︎テクノロジーの位置付けの説明
✔︎競争原理の活用
✔︎インタラクションの場
✔︎各ステークホルダー(政府、公務員、資金提供者、参加者、オーガナイザー)にとっての意義の明確化
コロナ禍に私が主導して開催した学生社会人座談会(通称:がくしゃか、延べ参加者数は約1500名)はまさにこのステップで進めてきた印象です。現在進行中の「大田区SDGs副業」についても同様のステップで進めていっています。アクションを進めていく中で、参加者が納得する社会的インパクトの定量化などはなかなかハードルが高く、難しいなという印象です。ただしここが活動のマグネットになるので、ここを怠ると活動の加速は見込めないので、常に優先順位を高めて進める必要があるという認識です。
・近年は会社は社会的責任を果たすべきという従業員からのプレッシャーがますます強まり、会社に対して実際に行動を起こす人も増えている。ここでは従業員アクティビズムがより効果的な担い手になるための手法を解説しています。
・そもそも従業員アクティビズムはどうやって進捗したのか、そのマクロなトレンドについて列挙。
✔︎働き手の期待の高まり・・・仕事を生計を立てる手段→自分の仕事に意義や目的を求めるようになってきている。
✔︎経営理念としてのエンパワーメント・・・従業員一人一人が当事者意識を持って組織運営を進めるという気概が高まってきている。
✔︎緊急性の高い社会課題・・・気候変動、水不足、基本的人権といった問題に対して企業が果たすべき役割に注目が集まってきており、自社が社会課題に対してどう向き合っているのか、自社はどうすればより良い方法でその解決に取り組めるのか、従業員が注意深く考えるようになった。
✔︎新しいテクノロジー・・・ソーシャルメディアの進捗で、従業員同士が情報交換をする、プロジェクトをオンラインで実行する、自社の関連情報をシェアするなどがしやすい環境が整ってきた。またそれがバイラルに広がっていくため、企業側も無視することができなくなった。
・従業員からの変革を進めるために従業員が用いる具体的な5つの手法
✔︎状況の分析・・・今がアクションすべき組織の状況なのかを細やかに分析し、キャリアに傷がつかない様な配慮を持って仕掛ける。また組織責任者で活動に賛同してくれそうな人が出てきているかを観察し、そのルートを構築しながら変革を始動する。
✔︎問題のフレーミング・・・組織のミッションや顧客ニーズなどに合わせて組織が問題を認識することを推進すること、自分たちの活動目標と企業型の利益を結びつけて進めること。
✔︎既存のプロセスや場所の活用・・・従業員が集合体となって推進するためのリアル、もしくはバーチャルな場所の確保。従業員同士が繋がり、交流し、アクションを検討するための場所が確保できないと、取り組みを推進することも難しくなる。
✔︎組織についての知識の活用・・・組織内の政治的な事業に関する知見をもって、影響力のあるインフルエンサーを巻き込み、セクター横断の協力体制を築くこと。この時、政治的な抵抗力を回避できるネットワークを構築できるかが肝になる。
✔︎ネットワークの活用・・・組織外のネットワークなどを活用して、知見を共有し合う。これを実践することで失敗確率を確実に下げることが可能。また、外部の声を活用することで効率的に内部組織を動かすこともできる様になる。
・管理職が果たすべき役割について。管理職は従業員アクティビズムの流れに抵抗するのではなく、うまく適応していくべき。従業員が組織と対立するのではなく、従業員のアクションが組織のミッションを加速していくように支援していく動きが求められていることが語られています。
・従業員アクティビズムをうまく活用している組織では、新事業のチャンスを見つける、創造的な人材を呼び込む機会を創出する、市場における良い評判を作っていくことができてきている。ビジネスリーダーが社会的利益への貢献者である地位を再度取り戻していくためにこれを活用すべきとのアドバイスで、このセクションは終えています。
この辺は、まさに大企業の有志団体ONE JAPANなどで取り組んできた内容そのものですね。もう少し具体事例で書き起こしする自信がある領域です。これを進める中で起こったハレーションや失敗事例も含めて可視化していきたいところです。また別の機会に言語化していきたいと思います。
・これまで見過ごされてきた個々人のウェルビーイングに関する洞察。ウェルビーイングプロジェクトという世界初のグローバル研究では、個々人の内面のウェルビーイングの改善が社会変化にどう影響しているのかを調査した。
・まだ調査の途中段階ではあるものの、個々人の内面のウェルビーイング向上が組織全体のウェルビーイングの向上にプラスの影響を与えていることがわかってきた。また社会レベルの好影響も観察されてきている。
✔︎個人レベルの成果・・・自己、アイデンティティ、役割
→インナーワークの結果、自分の全体生に近づくアイデンティティの発見、失敗の恐れからの開放、レジリエンスの向上とバランスの維持などの変化がみられた。
✔︎組織レベルの成果・・・信頼、統合、つながり
→インナーワークを進めることで、共感、コンパッション、感謝などの力が高まり、組織作りのための重要な素質や能力も育まれることがわかってきた。具体的には信頼しあう、弱さを隠さない、人を大切にする姿勢へのシフトが見られた。
✔︎セクターレベルの成果・・・オープンになる、コラボレーション、創造性
✔︎社会レベルの成果・・・コミュニティに根付き、新たな掛け橋を築き、コレクティブインパクトを生み出す
この辺は大企業挑戦者プログラムCHANGE by ONE JAPANなどで原体験化プログラムを進めている内容そのものだと感じました。やはり自分ごと化して、自己決定して進めるプロセスそのものに意味があり、自分自身が納得して進めるアクションにはウェルビーイングの向上もみられるし、組織への好影響もみられると感じます。CHANGEでも定量的なリサーチをしてみたい部分ですね。
・日本的な知識創造体としてのETICについて。社会起業家を育成するコミュニティであるETICの系譜について解説。ETICは人材育成領域、事業創出・成長支援領域、コミュニティプロデュースという3つの領域でソーシャルイノベーターを増やしてきたと語られています。
・ETICでは、一橋大学名誉教授の野中ゆう次郎先生が提唱する知的創造理論を実践する組織と紹介されている。知的創造理論とは下記のステップで語られています。
✔︎共同化・・・各プレイヤーが現場での直接経験などを通じて暗黙知を共有
✔︎表出化・・・共有した暗黙知を言語化し、概念化することによって形式知に変換
✔︎連結化・・・変換した形式知を組織内外の他の形式知と組み合わせ、体系化して新たな形式知を作り出す
✔︎内面化・・・一連の実践や行動を通して、各プレイヤーが新たな暗黙知を自身に取り込んでいく
現在、ONE Xで推進しているふるさと兼業、塩尻CxO Lab、大田区SDGs副業のような取り組みはまさにこの共同化、表出化、連結化、内面化をコミュニティを通じて行っている感じですね。今まであまり意識して進めていませんでしたが、このサイクルが加速していくようにコミュニティを設計していく必要がありそうですね。
・次のセクションでは、市民社会の基盤について語られている。環境問題の解決などには多くの資金が投入されているが、それのベースとなる市民社会の意思決定プロセスの改善に相対的に資金が向けられていないことに対して問題提起している。
・社会に最も蔓延している問題(質の高い教育、公衆衛生向上、環境保護、異文化間の理解、安全保障)は公益の問題であり、その解決に最も貢献するのは市民社会とフィランソロピー(=ウェルビーイングを目的とした利他的活動、篤志)のはず。だが、現在のフィランソロピーは市場原理で測れるようなもの(利益確保等)に偏ってきており、問題に対応する能力を発揮しきれていないのが現状。
これはセクションで語られている通り、公益セクターのイノベーションが加速していない根源的な原因になっている様な気がします。自治体の意思決定プロセスにおいては、市民のウェルビーイング向上に寄与する取り組みに投資されていくべきですし、そこの意思決定プロセスの整理と、地域としてのグランドデザインを進めていく必要がありそうです。ONE Xとしては大田区や塩尻市の取り組みに関わらせていただいているので、この辺りの改善に向けて働きかけていきたいですね。
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要約ここまで。後半のセクションは記載できなかったので、興味のある方はぜひ書籍を読んでいただけると嬉しいです。
ちなみに、ソーシャルイノベーションという文脈で私自身が最も注目している自治体は岡山県の西粟倉村です。この村は約1500人の人口にも関わらず、人口流入が加速しており空き家はゼロ。世界で最も注目されている社会課題解決地域だと思います。日本で顕在化してきている課題はすでに解決しており、彼らは次の課題解決に向けてアクションを進めています。ONE Xとしても関わりが深くなってきていますので、ぜひこの機会に更なる深掘りと他地域へのヒントを見出していきたいと思います。今日は書評レビューということでこのくらいで終えておきたいと思います。最後まで読んでいただいた皆さん、ありがとうございました。難しめの書籍だったので硬い要約になってしまいました。もっと要約上手くなりたいですね。